はじめに

教材誕生の経緯

新しい小学校学習指導要領(文部科学省、平成20年3月)に基づき、平成23年度から小学校高学年で年間35時間の外国語活動が必修として導入されます。その目標及び内容は次の通りです。

目標
 外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。
内容〔第5学年及び第6学年〕
1 外国語を用いて積極的にコミュニケーションを図ることができるよう,次の事項について指導する。
(1)外国語を用いてコミュニケーションを図る楽しさを体験すること。
(2)積極的に外国語を聞いたり,話したりすること。
(3)言語を用いてコミュニケーションを図ることの大切さを知ること。
2 日本と外国の言語や文化について,体験的に理解を深めることができるよう,次の事項について指導する。
(1)外国語の音声やリズムなどに慣れ親しむとともに,日本語との違いを知り,言葉の面白さや豊かさに気付くこと。
(2)日本と外国との生活,習慣,行事などの違いを知り,多様なものの見方や考え方があることに気付くこと。
(3)異なる文化をもつ人々との交流等を体験し,文化等に対する理解を深めること。

 つまり、ここで言う外国語活動は、言語習得というよりも、体験学習、言語や異文化に対する気付きを中心に据えていると考えられます。しかし問題が一つあります。この外国語活動においては、英語を取り扱うことが原則とされていることです。
 我々は英語活動・教育を否定するわけではありませんが、もっと多様な言語に対する出会いを、特に小学校段階では大切にすべきではないかと提案してきました。英語一辺倒の外国語教育が我々の意識にどのような影響を与えてきたのか、言語能力の育成にどれほどの効果があったのかなどを検討しながら辿り着いた提案です。
 もちろん、小学校英語にただ反対し、もっと多様な言語に触れさせようと主張しても、理解、賛同が得られないことも我々は承知しています。小学校英語に対する経済界や保護者からの要請があり、教育現場もそれに応えざるを得ない状況にあることもわかっているつもりです。
 そこで、小学校英語活動と競合しない形で、多様な言語への出会いを体験させるプログラムの具体を示すことが必要だと考えました。誰が、どのように、何を使うのか、評価はどうするのかなど多くの課題がありますが、まずは教材開発を試みることにしました。そして、我々の製作したDVD教材を紹介するためにこのホームページを立ち上げました。小学校現場の先生方を中心に多くの方々に見ていただければ幸いです。教材は一部しかお見せできませんが、教育現場での使用を希望される方は、是非ご連絡いただければと思います。

教材の使用方法

 この教材は、学校における教員の負担を余り増やすことなく、言語や自分のアイデンティティーの問題で苦しんでいる児童、生徒に多少なりとも力を与え、現段階では外国語といえば英語しか学校で提供されない多くの小学生児童に多様な言語に触れる機会を持ってもらうことが目的です。実際に授業で使いたい先生方に、無料で貸し出します。

 DVDの使い方は、小学校現場の状況に合わせ、自由に使っていただければ結構です。ただし、この教材を無料で貸し出す条件が三つあります。一つ目は、無断でコピーをしないでいただきたいこと。二つ目は、この教材を使用するにあたり、児童・生徒の変化を測定していただきたいこと。(事前、事後の調査に関しては、貸し出す際に相談させていただきます。)そして三つ目として、教材に関するご意見をいただきたいことです。様々なご意見を参考に、この教材を改善して参りたいと思います。

 また、この教材のDVD版は、一部英語やフランス語の字幕を付けることにしました。それには二つの理由があります。一つは、日本における英語やフランス語の授業でも取り上げてもらうことを可能とするため、もう一つは、良くも悪くも世界の広範囲で使用されている英語とフランス語とを利用することで、日本以外の国の教員にも使っていただくためです。ウェブ・サイトも将来的には多言語化し、日本の外にも発信していきたいと考えています。

吉村雅仁

吉村雅仁(YOSHIMURA Masahito)

奈良教育大学教育学研究科専門職学位課程(教職大学院)教授

・ 現在の主な研究領域: 言語意識教育、国際理解教育、多言語・多文化教育の実践研究

・ 最近の業績:

"Promoting Awareness of Linguistic and Cultural Diversity through English Language Activities in Japanese Primary Schools: Continuous Manifest and Latent Curricula" Conscience du plurilinguisme : pratiques, représentations et interventions, Presses Universitaires de Rennes (PUR) publisher, 2008, pp.201-217

「公立小学校との連携に基づく小学校英語及び国際教育担当教員養成カリキュラムと実習プロトタイプの構築」日本教育大学協会第二常置委員会編『日本教育大学協会研究年報』第26集,2008, pp. 209-223

「総合的な学習の時間における言語意識教育の試み」『奈良教育大学紀要』第56巻1号, 2007, pp. 175-182

「多言語・多文化共生意識を育む小学校英語活動の試み」『国際理解』第36号, 2005年,pp.186-196

古石篤子

古石篤子(KOISHI Atsuko)

慶応大学総合政策学部教授

・現在の主な研究領域: バイリンガル教育の方法論(ろう児の場合)、ろう児の言語能力評価の方法論、多言語・多文化教育の方法論


・最近の業績:

L’éducation des enfants sourds au Japon - Ouverture d’une première école bilingue / biculturelle à Tokyo – (à paraître)

Entre l’enseignement de l’anglais et la sensibilisation au multilinguisme : un essai de programme interculturel dans la ville de Fujisawa (à paraître)

「ろう児の教育:言語政策の観点から」『混乱・模索するろう教育の現場』(佐々木倫子・古石篤子編)2008年2月 湘南藤沢学会リサーチメモ pp.61-72

『言語教育における多様性について:初等・中等教育における政策と実践(1)(2)』(古石篤子(編著))2008年1月 慶應義塾大学21世紀COEプログラム「総合政策学ワーキングペーパー」No.136 & 137
 http://coe21-policy.sfc.keio.ac.jp/ja/wp/WP136.pdf
 http://coe21-policy.sfc.keio.ac.jp/ja/wp/WP137.pdf